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25セントの恋人ごっこ

ねこがかわいい。本を書く。

振り込め詐欺が家族の絆では防げない理由

宣伝です。

 

振り込め詐欺がいっこうになくならない現在、テレビなどで、振り込め詐欺への対策として、

『息子からの電話を基本信用しない』

『離れている家族とは密に連絡を取る』

『電話が来たら警察にすぐ通報する』

といったものが紹介されていますが、実際にはそこで防げるかというとそうでもなく、詐欺グループは更に巧妙かつ大胆な手口を開発しており、安心できるわけではありません。

というようなことを、4月15日発売、5月15日は各電子書籍でも配信開始した私の新作小説「トクシュー! ‐特殊債権回収室‐ 」にて書きました。

買って読んでいただくのが一番良いのですが、この内容に関しては、上記の対策だけでは安全ではない、ということを周知したい想いがあり、本文から引用いたします。

 

 

>>引用開始

 

「まあ、講釈してやるよ。たとえば、お前がそういう電話を受けたらどうする?」

「無視する」

 栴檀は当然といった顔で即答し蘇合を見る。蘇合は笑ったままだ。

「そう、その通り。無視すればいい。他には、お前が、善良な市民だったら、のケースはどうだ?」

「警察に通報する」
 栴檀自身、警察に通報したことはなく、通報されたこともなく、実際に詐欺の電話が来 ても通報をする気はない。ただ、一般市民がどこかに詐欺があったことを告げるなら、まず警察が浮かぶだろう。

「そう、これが話によく聞く『詐欺』だったら、そうだろうな。だが、こいつらがやっていたのは詐欺じゃないんだよ」

「詐欺じゃない?」

「振込詐欺が流行るまでは、確かにカモリストを作って、嵌めやすい、一人暮らしでそこそこの金がすぐ用意できる、家族と疎遠の老人を狙っていたのは事実だ。ボケかかっていればなおさらありがたい。だが、ほとんどは電話帳でそれらしい人間にどんどん電話をかけて、少しでも相手が疑問に思っているようだったら詐欺は諦めてリストの次へ電話をかける、っていうそういう戦法だった。初期は息子と称する電話だけで振り込ませられたし、多少手法が知られて警戒されるようになったあと偽警官や偽弁護士が出てくる劇場型っていうのができた」

「第二ステージか」
 彼らはこの複雑化された手法への移行を『第二ステージ』と呼んでいた。

「ちょっと派手にやりすぎて、ヘマをする連中も出てきちまったもんだから、銀行振り込みが厳しくなった。架空口座も安全なものは高値になって、割に合わなくなった。だから警察はこれで被害が減ると思った。金を受け取るのに顔を合わせなくても済むのがメリットだったんだから、沈静化するだろう、と。期待しすぎたんだな、そこまでこいつらも馬鹿じゃないってな」

「馬鹿だったのか?」

「あるいは、警察が自分たちを信用しすぎた」
 エレベーターは何度押しても反応がなかった。電気系統がすべて止まっているのかもしれない。諦めて二人は階段を上り始める。
 蘇合が先行しながら続ける。

「最初は数打ちゃ当たるを地で行っていたんだが、今は通報されるリスクが高くなったものだから、ヤツらはカモリストの精度を高めることにした。つまり、資産状況だけじゃなく、家族情報も徹底的に調べ上げるようにしていったんだよ」

「それで」

「たとえば。詐欺の電話をする段階で、少しずつ持っている家族情報を出す。オレオレがベースだが、息子が『横領した会社』や『心配している家族』の名前をちらりと出す。するとどう思う?」

 階段の踊り場まで来たところで、蘇合が振り返る。栴檀は上げる足を止めて、蘇合に答えた。

「自分のことを知っていると思う。そうか」
 栴檀がそこで了解して言葉を止めた。蘇合もそれで十分のようだった。
 自分だけでなく、遠方にいる家族の情報まで知っている。年齢や氏名だけでなく、住所や職場までもだ。そんな輩が突然金を、しかも、自分がすぐに用意できる範囲の金を要求してくる。
 相手は自分のことを知りすぎているのだ。そのことに気が付いたか弱い老人はどう思うだろうか。

「電話がかかってきた老人の心境はそうだな、『息子が大変だ』じゃない、『はやくこの嵐が過ぎて厄介事が去ってほしい』だ」
 もはや詐欺側にとっても、『相手が騙されているかどうか』はどうでもよいということだ。

「で、取れるだけを要求する。百万か、2百万か、最近の老人は銀行を信じていないのか、 いや、俺だって信じているわけじゃないが、どうもタンス預金をしている率が高いらしいから、家にそれだけの現金があるわけだ。だから相手が余計なことを考える前に回収してしまう。そのためにはきっちり情報を集めておく必要があるんだな。家の近くに回収に来る役はどう見ても堅気の人間には見えないヤツだ。お前が老人ならどうする?」
 栴檀もそこまでの説明で、被害者の人間心理を理解したようだ。
「警察には、言わないだろうな。報復を恐れるだろうから」

「まあ、そういうこった」
 その後、被害届を出せば警察は受け取るだろう。捜査も一応してくれるかもしれない。 ただ、その間、おそらく『被害届を出したという事実』は相手側にも知られてしまう。
 警察は二十四時間守ってくれるだろうか、そんなはずはない。
 実際には何もしなくても、ほんの少しでも電話や回収時に臭わせておけば、報復をしに 来るのではないかと老人は萎縮してしまうだろう。十分に時間が経ったり、家族に諭され たり、そういう事情があれば被害届を出す気にもなるかもしれない。
 ということは、まだ報復を恐れて黙ったままの明るみになっていない同様の詐欺の被害 者はたくさんいるはずだ。

「これでは詐欺じゃない。これは恐喝だ」
 端から騙すつもりもない、相手に恐怖を覚えさせて金を引き出しているだけだ。

「だから言ったろ、詐欺じゃないんだよ。強盗しに行くから金を用意して待っていろ、っ て言ってるのと同じだな」

「そうだ」

「どんな罪になるかは関係ない。大事なのは金が取れるかどうか、だ。まあ、俺もスマー トなやり口だとは思わないけどな。だが恐喝と同じだな、一回引っかかったヤツは、二回、三回と金を出してくるってわけだ。嵌まればデカい」

「犯罪にスマートもない、すべてはただの犯罪だ」
 金を奪っているという点では、恐喝も詐欺も変わりない。栴檀はそう思っている。それ に罪の違いがあるというのもおかしいとまで思っている。精神的な被害についてはあまり関心がない。
 それは蘇合も同様だろうと栴檀は思っている。

「その通り、お前が正しいよ」

「通報すれば本当に報復するのか?」

「さあな、そこまでリスクは取らないと思うがな、っと!」

 

<<引用終了

 

 

結局のところ『家に現金を保管しない』という単純なことがこの手口をある程度防ぐ(詐欺グループは時間をかけたくない)方法なのですが、マイナス金利の影響で家庭用金庫の売上が好調らしく、いやはやどうにも……

 

 

それ以外にも、お金にまつわる話(マイナス金利と全銀システムの話もあります!)や、今話題となったマネーロンダリングのいくつかの古典的な手法を紹介しつつ、軽く読めるように書きましたので、通勤通学の合間にでもお読みいただければ幸いです。

トクシュー! ‐特殊債権回収室‐ (Novel 0)

トクシュー! ‐特殊債権回収室‐ (Novel 0)

 

 

買ってください!病気の私がいるんです!!  

stalemate.hateblo.jp

 

あとパナマ文書にあたり、「租税回避」の基礎知識を書きました。

マネーにご興味のある方はあわせてご参照ください。

stalemate.hateblo.jp

 

 

 

 

詐欺グループの一連の情報の多くはこちらを参考にいたしました。

振り込め詐欺グループがどのように構成され、どのように活動しているかを実際に振り込め詐欺をしている人物にインタビューした本です。

振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々

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